(南郷+赤木)


  「・・・甘いね」
 俯いていた赤木が、はにかむように顏を少し上げた。こうして見ると、とてもあの夜の闘牌を演じた人間には見えない。何処にでもいる、そう、少し毛色の違うだけの子供だ。
 その口許は閉じられていて、色の白い頬は内側から押しやるように膨らんでいる。
「この飴どうしたの?」
「――。」
 膨らみが右へ左へと移動する様子に目を奪われて答えが遅れる。カロリ、と歯にでも当たったのだろう固い篭った音が聞こえた。
 途端、向かい合う相手の熱い口内が酷く、生々しい記憶と共に背中を這上がる。
「――っ」
 鼓動が跳ね上がり、知らず唇を噛み締めてしまう。
「・・・南郷さん?」
 黙ったままの自分をいぶかしんでか、お前がまた顏を見上げ少し首を傾げて口を開く。その舌先に見え隠れする硝子玉の赤と、健康的な白い歯のコントラストに目が吸い寄せられる。
 躯中から熱が溢れ出そうで、衝動的に両手を伸ばした。
「?!っ・・・何?」
 お前の驚いた声も、まだ子供のままで柔らかく腕に余る小さな体も胸の中に閉じ込めてしまって、ようやく安心する。
 あんまり健全な発想じゃない、分かっていてもどうにもならないこともある。この世で無ニの存在を目の前にしたら、なおさら。
 見るほどに見事な色素の薄い、柔らかな髪に唇を押しつけた。鼻腔に広がるお前の匂い。きしり、と髪を歯で喰む。男の熱い息を受けながら、擦れたように低く小さく笑うお前の声。
そのどれもか自分を狂わせる。
 気付かないでくれと思っても、きっとお前は感じ取っているのだろう。この暗い想いの底を。
「ア、アカギ」
 言葉に出来るのはそれが精一杯で。
 そう、他に何と云えるというのだ。こうして腕の中に閉じ込めても、搾取されているのは己の心の方だというのに。
「飴ひとつで懐柔しようって云うの?」
 解かれず捕まえられ、俺にされるがまま身じろぎもせずだったお前が、静かに呟いた。
「いや、ちがっ・・・・え」
 心の内を見透かされた後ろめたさに俺は激しく狼狽えた。倍以上も年の違う子供のたった一言に、こんなにも翻弄されている。
「ア・・・・」
「・・・・痛いよ」
 思わず力が入ってしまったのか、腕の中のお前が不満げに口を開く。
「すっ、すまない」
 慌ててその身体を解放する。腕に残っていたはずの、その温もりが、幻のように消えていく。
「ふふ」
 あどけない子供の顔が一瞬にして変わる。あの夜に見た狂乱の青い炎。
 消えたはずの熱が再び自分の躯を舐め回していく。逸らせない赧い瞳に魅入られたまま動くことすら出来ない。
「ねえ・・・・南郷さん・・・・」
 擦れた低い、甘い声が耳をくすぐる。
 ただ自分は、この奇跡のような才気と無垢ともいえる狂気の前に跪き、ひれ伏すしかないのだと。
 そして。全てが恍惚の中に満たされている俺を、お前は知っているのだ。




Today's they only as for this.

060406
初書きアカギtext。南郷さんが挙動不審過ぎです。