七夕ss(南郷+赤木) 南郷は少し出て来る、と云って半刻程前に出掛けてしまった。それなら一緒に出て帰ろうとした自分に、用事がないなら待っててくれ、と云うので、赤木は一人、南郷の部屋で所在なく時間を潰していた。寝転んだ視線の先には、所々畳の目が撥ね上がっている。それをただぼんやり暇つぶしに数えて、127ツ目。 「アカギ、待たせたな。笹貰って来たぞー」 玄関戸が開くと同時に豪快な南郷の声が聞こえる。畳の目から声の方へ視線を移せば、その手には一本の笹が握られていた。一瞬赤木の動きが止まり、ややあって笹から南郷の顔へと視線を上げる。 「…何で?」 「七夕だろう、今日は」 南郷が歩く度にカサカサと、笹の葉が擦れ合う音が重なる。そのまま、どかり、と赤木の寝転ぶ傍までやって来て腰を下ろした。目の前には笹の葉。 「短冊は適当な紙でいいよな」 ほら、とこれも何処から用意してきたのか、紙とマジックが差し出される。無言で見つめ返す赤木を気にするでもなく、南郷はさっさと短冊に向かって何事か書き込んでいる様子だった。南郷の手が3枚目の短冊に伸びた時、赤木は身を起こして書き上げられた短冊を覗き込む。 『家内安全』『世界平和』 「…ねえ南郷さん、何してるの?」 「だから七夕だって。お前も書けよ、何かあるだろ。ちゃんと一番上に付けてやるから」 「…一番上?」 「一番上に付いてる短冊の願い事を叶えてくれる、って云うだろ?」 出来上がった3枚目は『天の川』。 「…本気で云ってんの?」 心底呆れた声を出した赤木に、南郷がようやく短冊に向かっていた手を止めた。マジックを置くと、南郷の大きな手が赤木に伸びて来る。え、と思う間も無く、赤木はくしゃくしゃに頭を撫で回されてしまう。思わず目を瞑ってしまって、次に開けたその先には南郷のいつもの笑顔。 「いいから、書けよ。な」 「…うん」 赤木は大人しく南郷の隣に座り直し、まだ書かれていない真っ白な短冊に手を伸ばした。 For example, I will carry out such a talk. 060708 七夕textのくせに8日upとかいう間抜けぶり。 あの頃、唯一しげるが「子ども」であることを当たり前として、接しくれたのが南郷さんだったのかなぁ、とか。 |